電池で長く動くIoTの開発事例5選|低消費電力設計とコイン電池・バッテリーの選び方

はじめに:「置きたい場所に、コンセントが無い」

IoT機器の構想が具体的になってくると、ほぼ必ずぶつかる壁があります。電源です。

ため池のほとり、屋外の設備、貸し出して動き回る自転車、体に着けるデバイス。データを取りたい場所ほど、コンセントは近くにありません。電源工事をすれば設置費用が跳ね上がりますし、「電池式にしたら数週間で電池切れ」では、交換の手間で運用が回らなくなります。

結論から言うと、電池で年単位で動くIoT機器は作れます。ただしそれを決めるのは電池の性能ではなく、設計です。消費電流を「桁」で管理し、機器を普段は寝かせておき、通信方式と電池を置き場所から逆算して選ぶ——その積み重ねで、同じ電池でも寿命は何十倍も変わります。

サーリューションでは、マイコンのファームウェア(機器の中で動くソフト)と回路・基板の開発を通じて、電池で動く機器を数多く手がけてきました。本記事では低消費電力設計の考え方を整理したうえで、実際の開発事例5件を「電池運用の5つの戦略」として紹介します。

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電池で動くIoTが難しい理由|消費電流は「桁」で考える

起きているマイコンは電池の電気を太い流れで消費し、眠っているマイコンは糸のように細い流れしか使わないことを、電池の残量の差で対比した図

電池駆動の設計で最初に身につけるべき感覚は、消費電流を「桁」で見ることです。

マイコンや無線が働いているときの電流はミリアンペア(mA)級。いっぽう、低消費電力タイプのマイコンが眠っているときの電流はマイクロアンペア(μA)級以下——1,000倍以上の開きがあります。機器の電池寿命は、この2つの状態の「時間の配分」でほぼ決まります。

どれくらい違うのか、電池の容量から逆算してみます。

平均消費電流 単3アルカリ電池
(目安 約2,000mAh)なら
コイン電池CR2032
(公称 約220mAh)なら
20mA(無線を出しっぱなしの級) 約4日 約半日
1mA 約3か月 約9日
100μA 約2年 約3か月
25μA 数年(自己放電の影響が大) 約1年

※ 容量÷平均電流による理論値の概算です。電池の容量は放電条件・温度・終止電圧で変わるため、代表的な目安で計算しています。実際はさらに目減りします(詳しくは後述)。

「電池で1年」と言われたら、コイン電池なら平均25μA、単3電池でも平均200μA程度に収める必要がある、ということです。センサーを読んで無線で送るたびにmA級の電流が流れる機器で、この平均値をどう実現するか——それが低消費電力設計の中身です。


電池で長く動かす低消費電力設計の基本|スリープと間欠動作

長い待機時間の合間に、測って送るための短い動作が一瞬だけ立ち上がる間欠動作の波形を示した図

答えの骨格はシンプルで、「普段は寝る。用があるときだけ起きる」です。

  • スリープ:マイコンが持つ省電力の待機機能。処理を止めて消費電流をμA級以下まで落とす
  • 間欠動作:「起きる → 測る → 送る → また寝る」を周期的に繰り返す動かし方
  • 起こし方:時間で起きる(タイマー起床)だけでなく、センサー側の割り込み(動きや変化を検知したときだけマイコンを起こす機能)を使うと、無駄な起床そのものを減らせる

このとき電力を最も食うのは、たいてい無線送信です。だから設計の焦点は「送る回数と時間をどう減らすか」に集まります。毎回送らずにまとめて送る、変化があったときだけ送る、送るデータを小さくする——測る頻度と送る頻度の決め方が、そのまま電池寿命になります。

もうひとつ見落とされがちなのが、マイコン以外を寝かせることです。センサーや周辺回路が待機中も電気を使い続けていては、マイコンだけ眠っても意味がありません。使わない間はセンサーの電源ごと切れるように回路を設計しておく、LEDの点灯をやめる、電源回路自体の待機電流を抑える——ソフトの工夫と回路の工夫はセットで、どちらか片方では目標の桁に届かないことがよくあります。


通信方式の選び方|BLE・Sigfox・LTE-M・LoRa

先ほどの「時間の配分」と1回あたりに流れる電流を最も大きく左右するのが、通信方式です。電池で動かす前提なら、通信方式の選定が電池寿命の大半を決めます。「どこに置くか」「どこまで電波を飛ばすか」「どれくらいの頻度で送るか」で答えが変わります。

BLE(Bluetoothの省電力規格)、Sigfox・LoRa(少ないデータを遠くまで低電力で送ることに特化した無線)、LTE-M(携帯回線の省電力版)——方式ごとに得意分野がはっきり分かれています。

通信方式 電池運用との相性 向いている使い方
BLE ◎ 得意 数m〜数十mの近距離。スマートフォンや中継機で受ける。装着型・持ち歩く機器
Sigfox ○ 少量のデータなら 広域・屋外。1日数回の送信で年単位の運用を狙う。採用時は国内の提供状況と料金体系の確認を
LTE-M 携帯電話の電波が届く屋外。送るデータがやや多めでも対応しやすい
LoRa 敷地内〜見通し数kmの範囲に自前の親機を置ける現場
Wi-Fi △ 消費電力は大きめ 建物内で既存のネットワークが使える場所。電池での長期運用には向きにくい

※ 距離・相性はいずれも一般的な構成での目安です。BLEはBluetooth 5の長距離モードや外部アンテナを使う構成で数百mに達することもあり、Wi-Fiにも省電力型の製品があります。どの方式も、障害物や設置条件で実際の距離は大きく変わります。

実際の使い分けは、当社の開発事例がそのまま参考になります。

📎 BLEの技術的な詳細は → マイコンによるBLE/Bluetooth開発事例5選


電池・バッテリーの選び方|コイン電池でどこまでいけるか

コイン型電池・乾電池・リチウム一次電池・充電式電池・ソーラーパネルの5種類を、中央のマイコン基板とつないで並べた図

電池は「容量」だけで選ぶと失敗します。出せる電流・温度への強さ・自己放電の少なさ・入手のしやすさまで含めて、機器の性格に合わせて選びます。

電池 特徴 向く機器
コイン型電池(CR2032など) 小さく軽い。容量は220mAh前後で、大きな電流は苦手 カード型・装着型・ビーコンなど、小さくて間欠動作の機器
乾電池(単3・単4) どこでも買えて交換しやすい 屋内のセンサー類。数か月〜数年の間欠動作
リチウム一次電池 自己放電が少なく低温に強い。長期保存向き 屋外・長期運用の機器
充電式(リチウムイオンなど) 繰り返し使えるが、充電制御の回路が必要 毎日使うウェアラブル、消費の大きい機器
電池+ソーラー併用 電池交換ゼロを狙える。発電は天候しだい 屋外の常設機器

コイン型電池で無線機器を動かすときの代表的な落とし穴が、瞬間的な大電流(パルス電流)に弱いことです。無線送信の一瞬だけ電流が跳ね上がると、容量が残っていても電圧が落ち込んで機器がリセットしてしまう。送信のタイミングを分散させたり、コンデンサ(電気を一時的に蓄える部品)で瞬間の電流を支えたりと、電池の性格に合わせた回路とソフトの作り込みが必要になります。


開発事例5選|電池運用の5つの戦略

ここからは、サーリューションが実際に開発した機器を、電池運用の戦略別に5件紹介します。

① 体に装着する心電計測デバイス —— 戦略1:充電式×BLEで「毎日使える」を作る

マイコン:ノルディック nRF52832(BLE通信を内蔵したマイコン)
要素技術:BLE、AD変換(センサーの信号を数値化する処理)、ブザー、バイブレーション、充電制御

心臓の電気信号を計測し、BLEで送信する装着型のデバイスです。充電式の電池を採用し、充電の制御までマイコンが受け持つ構成です。

装着型は「小さく・軽く・長く動く」を同時に満たす必要がある、電池設計のいちばん厳しい分野です。計測していない時間はスリープで待ち、BLEの通信間隔は必要最低限に絞る。ブザーやバイブレーションのような通知部品は、鳴らす一瞬だけ電気を流す。こうした作り込みの合計が「毎日使える機器」と「すぐ電池が切れる機器」を分けます。

ポイント:毎日身に着けて使う機器では、電池交換式より充電式+充電制御が合理的な選択になることが多くあります。どちらを選ぶかは使われ方しだい——ここが要件定義の入口です。


② カード型の情報端末 —— 戦略2:低消費電力マイコンで「小さな電池」を使い切る

マイコン:テキサス・インスツルメンツ MSP430(超低消費電力で知られるシリーズ)
要素技術:ドット表示のLCD(画面表示)、赤外線(IR)通信

カードの形をした情報端末です。表示にLCDを持ち、データのやり取りは赤外線通信で行います。

カード型ということは、電池を入れるスペースが極端に小さいということです。この制約では、ソフトの工夫の前にマイコンの選定が効きます。この機器で採用したMSP430は、待機時の消費電流の小ささで知られる低消費電力マイコンの代表格です。そのうえで、表示は必要なときだけ、通信は短時間で終える設計にして、小さな電池で実用になる動作時間を確保しました。

ポイント:筐体の大きさが電池を決め、電池がマイコンを決める。小さい機器ほど、部品選定の段階で電池寿命の大勢が決まります。2010年の開発事例で、低消費電力設計が近年のIoTブーム以前からの蓄積であることが分かる例でもあります。


③ 電動アシスト自転車のレンタルシステム —— 戦略3:大容量バッテリーを「監視して」使い切る

マイコン:STマイクロエレクトロニクス STM32L0シリーズ(低消費電力タイプ)+ノルディック nRF52832 の2マイコン構成
要素技術:ロックの制御(モータ制御)、AD変換によるバッテリー監視、BLE、MODBUS通信(機器内・機器間でよく使われる通信規格)、シリアル通信

市街地で電動アシスト自転車を貸し出すレンタルシステムです。充電スタンドと連携し、「誰が・いつ・どこから借りたか」が記録されます。機器側は、錠の制御と、バッテリーの状態監視・無線通信を、役割の違う2つのマイコンで分担する構成です。

電動アシスト自転車のような大容量バッテリーの機器では、「消費を減らす」だけでなく「残量と状態を正確に把握して運用を回す」ことが電池戦略の中心になります。残量が分からなければ貸し出せませんし、充電のタイミングも決められません。電圧をAD変換で監視し、その情報を通信で吸い上げる——地味に見えて、レンタルという事業そのものを支えている部分です。

📎 この開発事例の詳しい内容 → 電動アシスト自転車のレンタルシステム

ポイント:電池運用には「長くもたせる」と「見える化して回す」の2面があります。バッテリー監視・充電管理は、低消費電力設計と並ぶもう一つの柱です。


④ ソーラー充電のバッテリーパネル —— 戦略4:電気を自給する

マイコン:ルネサス RL78/G13(低消費電力タイプのマイコン)
要素技術:充電制御、LED、MODBUS通信

太陽電池でバッテリーに充電し、機器へ電力を供給する電源ユニットです。充電のしすぎ・放電のしすぎを防ぐ充電制御をマイコンが受け持ち、状態を通信で上位に伝えます。

屋外の常設機器で「電池交換ゼロ」を狙うなら、発電との組み合わせが選択肢になります。ただしソーラーは発電できない日が続く前提で設計しなければなりません。天候の悪い時期にどれだけの蓄えで乗り切るか、バッテリーの容量と機器の消費のバランスをどう取るか——ここを外すと、いちばん日照の少ない季節に止まります。

ポイント:エネルギーハーベスト(環境から電気を集めて自給する考え方)は万能ではなく、「消費を減らす設計」ができていて初めて成立します。低消費電力設計との合わせ技です。


⑤ 電池機器を後付けで無線化するユニット —— 戦略5:作り直さずに「足す」

マイコン:シリコン・ラボラトリーズ BGM13P(BLE通信モジュール)
要素技術:BLE、シリアル通信

既存の機器が持つシリアル通信(配線でつなぐ基本的な通信)をBLEに橋渡しして、バッテリー関連機器の情報を手元の端末で確認できるようにする無線ユニットです。

機器そのものを作り直さず、通信ユニットを後付けして無線化するアプローチです。電波の認証(技適)を取得した既製の無線モジュールを使う設計には、アンテナや電波法対応を一から自前で行う場合に比べて、開発期間を短くできる利点もあります。

ポイント:「電池で動くIoT」はゼロから作るものとは限りません。いま現場で動いている機器に、小さな無線ユニットを足す——このやり方なら、既存資産を活かしたまま短期間でデータが取れるようになります。


電池寿命の見積り方

最後に、企画段階で使える概算の方法です。

電池寿命(時間) ≒ 電池の容量(mAh) ÷ 平均消費電流(mA)

平均消費電流は、動作中とスリープ中の電流を時間の割合で混ぜて出します。たとえば「1時間に1回、10秒だけ起きて測って送る。動作中は10mA、スリープ中は10μA」という機器なら——

  • 動作分:10mA × 10秒/3,600秒 ≒ 28μA
  • スリープ分:10μA × 3,590秒/3,600秒 ≒ 10μA
  • 平均 ≒ 38μA → 単3アルカリ(2,000mAh)で約6年(理論値)

ただし、この計算どおりにはいきません。目減りする要因が必ずあるからです。

  • 自己放電:電池は使わなくても少しずつ減る(年単位の運用では無視できない)
  • 低温:屋外の冬は取り出せる容量が目減りする
  • 電圧降下:容量が残っていても、電圧が下がった時点で機器は止まる
  • パルス電流:無線送信の瞬間的な電流に弱い電池では、実効容量がさらに下がる

実務では、概算に余裕を持たせたうえで、試作段階で実際の消費電流を測ることが欠かせません。机上の計算と実測を突き合わせて、初めて「何年もちます」と言えるようになります。逆に言えば、「何年もたせたいか」は最初に決めるべき要件です。後から寿命を2倍に伸ばすのは、作り直しに近い変更になります。


サーリューションの対応範囲

ここまで見てきたとおり、電池で長く動かす設計は回路とソフトの合わせ技です。当社の対応範囲は次のとおりです。

領域 内容 対応
回路・基板 電源回路の設計、低消費電力を前提にした部品・マイコン選定、基板設計 自社で対応
ファームウェア スリープ・間欠動作の制御、通信制御、充電制御 自社で対応
電池まわりの検証 消費電流の実測、電池寿命の見積り、通信方式の選定 自社で対応
その後 試作から量産、部品の調達 自社で対応

「送る頻度を下げたいがソフトだけでは下がりきらない」「電源回路の待機電流が思ったより大きい」——電池の問題は、回路とソフトの境目で起きます。両方を一社で見られる体制が、この分野ではそのまま開発スピードになります。


まとめ

  • 消費電流はで考える。平均電流しだいで、コイン電池でも年単位は狙える
  • 基本は「普段は寝る」。測る頻度・送る頻度の決め方が、そのまま電池寿命になる
  • 通信方式の選定が電池寿命の大半を決める。置き場所から逆算して選ぶ
  • 電池は容量だけでなく、出せる電流・温度・自己放電で選ぶ
  • 寿命は式で概算し、試作で実測して確かめる。「何年もたせたいか」は最初に決める

サーリューションには、装着型・カード型からソーラー併用の屋外機器まで、電池で動く機器の開発実績があります。回路・基板・ファームウェアを一社で対応しているため、「この場所に置いて、何年もつ機器にできるか」という企画段階からご相談いただけます。

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