行動解析IoTの開発事例5選|人の動きを見える化するしくみと進め方

はじめに:「見えていない」ことが、いちばんのコスト

店舗のどこでお客様が立ち止まっているのか。工場の設備が本当に動いていた時間はどれくらいか。離れて暮らす家族が今日いつも通りに過ごせているか。ため池の水位は今どうなっているか。

どれも「見に行けば分かる」ことですが、見に行き続けることはできません。だから多くの現場では、勘と経験、あるいは月に一度の巡回記録で判断しています。

センサーとマイコンで、人やモノの動きを自動でデータにする。それが行動解析IoTです。カメラで撮って人が見るのではなく、必要な情報だけを数値として取り出し、離れた場所から確認できるようにするのが特徴です。

サーリューションでは、組み込みソフト(マイコンファームウェア)の開発を数多く手がけてきました。そのなかには、家電の電流から生活の様子を推定する見守りシステム、カメラを使わずに人の位置を捉える赤外線センサー、屋外のため池の水位を遠隔で送るシステムなどが含まれます。

本記事では、実際の開発事例5件を通して、行動解析IoTで何が分かるのか/どのセンサーを選ぶのか/集めたデータはどう手元に届くのかを整理します。

📎 外注をご検討の方はこちら → 組み込み受託開発とは|外注の進め方・費用・選び方ガイド


行動解析IoTとは?人やモノの動きをデータにするしくみ

センサーで測ったデータが無線で親機へ送られ、スマートフォンとパソコンの画面にグラフとして表示されるまでの3段階を示した図

行動解析IoTは、ひとことで言えば 「センサーで測る → 無線で送る → 画面で見る」 の3段構えの仕組みです。

「行動解析」という言葉から監視カメラと画像認識を思い浮かべる方が多いのですが、実務ではカメラを使わない構成のほうが多いのが実情です。理由は3つあります。

  • プライバシー:撮影に対する抵抗感が強く、店舗・オフィス・住宅では導入のハードルが高い
  • コスト:カメラと画像処理は機器も通信量も高くつく
  • 知りたいのは映像ではなく数字:「何人いたか」「何分いたか」「動いていたか」が分かれば足りることが多い

必要な数値だけを取り出せば、電池で長く動く小さなセンサーで済みます。「何を知りたいか」から逆算してセンサーを選ぶのが、行動解析IoTの設計の出発点です。

何が分かるのか

知りたいこと 測るもの よく使うセンサー
人がいるか/何人いるか 熱・動き 赤外線アレイセンサー、人感センサー
どこにどれくらい留まったか 位置・滞在時間 BLEビーコン、赤外線アレイセンサー
生活しているか(見守り) 家電の使用状況 電流センサー
体や道具がどう動いたか 加速度・角速度 加速度センサー、ジャイロ(角速度センサー)
設備が動いていたか 電圧・電流・振動 電流センサー、振動センサー
設備・場所の状態 水位・温度・圧力 水位センサー、温度センサー
いつ・誰が・どれを使ったか 認証と操作の記録 NFC(かざして読み取る近距離の通信)、スイッチ入力

従来のやり方と何が違うか

従来 行動解析IoT
記録 人が巡回して手書き・目視 自動で連続記録
頻度 1日1回〜月1回 数秒〜数分ごと
気づき 起きた後で分かる 変化した時点で分かる
蓄積 紙・個人の記憶 データとして残り、比較できる

「人手を減らす」以上に効くのが、比較できるようになることです。先月と今月、A店とB店、正常時と異常時。判断の材料が数字になると、議論が早く終わります。


使うセンサーの選び方:プライバシーと消費電力の見かた

人感センサー・赤外線アレイセンサー・電流センサー・加速度センサー・BLEビーコン・カメラの6種類を、中央のマイコン基板とつないで並べた図

行動解析で最初に決めるべきは、どこまで細かく知る必要があるかです。細かくするほど機器も通信量も電池消費も増えます。

プライバシーは「映像を残すか」と「個人が特定できる情報を扱うか」の2つを分けて考えると判断しやすくなります。映像を残さなくても、在宅・不在や起床就寝が分かるデータは扱いに配慮が要ります。

センサー 分かること 映像を
残すか
個人が特定
できるか
消費電力 向いている場面
人感センサー 人がいる/いない 残さない しにくい 極小(μA級) 在室検知、照明連動
赤外線アレイセンサー 人数・おおよその位置 残さない しにくい 中(mA級) 混雑把握、動線、見守り
電流センサー 家電・設備の使用状況 残さない 世帯・個人の生活が分かる 見守り、設備の稼働率
加速度センサー 動作の種類・回数 残さない 装着者と結びつく 極小(μA級) 装着型デバイス、動作の計測
BLEビーコン 位置・滞在時間 残さない 端末=人と結びつく 屋内の動線
カメラ+画像処理 詳細な行動 残す 特定できる 詳細な解析が必須の場合のみ

⚠️ 消費電力は桁で違います。低消費電力タイプの加速度センサーはマイクロアンペア級(動きの待ち受けならさらに小さい)で動きますが、赤外線アレイセンサーはミリアンペア級です。同じ「センサー」でも千倍近い差があるため、電池で動かす前提ならここを見誤ると電池寿命の見積もりが大きくずれます

赤外線アレイセンサーは行動解析で使いやすい選択肢のひとつです。熱を面で捉えるため、映像を残さずに「人がいる」「何人いる」「どのあたりにいる」が分かります。撮影していないので、店舗やオフィス、住宅でも説明がしやすいのが利点です。


データが手元に届くまでの4段階

集めたデータは、次の4段階を経てスマートフォンやパソコンの画面に届きます。

  1. センサー・端末:測って、必要なら端末側で判断する(例:しきい値を超えたときだけ送る)
  2. 通信:BLE、Wi-Fi、特定小電力無線、Sigfox、LTEなどでデータを飛ばす
  3. サーバー・クラウド:受け取ったデータを貯めて、集計する
  4. 画面:スマートフォン・パソコンで見る、異常時に通知する

設計でいちばん揉めるのが2番の通信方式です。「どこに置くか」「電源が取れるか」「どれくらいの頻度で送るか」で答えが変わります。

通信方式 届く距離の目安 電池での運用 向いている使い方
BLE 数m〜数十m ◎ 得意 装着型、近くのスマートフォンで受ける
Wi-Fi 建物内 △ 電源が欲しい 既存のネットワークが使える場所
特定小電力無線(920MHz帯) 見通しで数百m〜1km程度
屋内・障害物ありで数十m
建物内〜敷地内、専用の親機を置く
Sigfox 広域 ○ 少量なら可 屋外・遠隔地。国内網は京セラコミュニケーションシステムが運営。採用時は提供状況と料金体系の確認を
LTE / LTE-M 広域 LTE-Mなら○ 携帯電話の電波が届く屋外。LTE-Mは省電力版
その他のLPWA
(LoRaWAN、ELTRES など)
広域 上記で条件が合わないとき。案件ごとに比較して選定します

※ 距離はいずれも一般的な構成での目安です。BLEは Bluetooth 5 の長距離モードや外部アンテナを使う構成であれば数百mに達することもあり、逆にどの方式も障害物があれば大きく短くなります。

電池で動かす前提の場合、通信方式の選定が電池寿命をほぼ決めます。「何を測るか」より先に「どこに置くか」を決めると、設計の手戻りが減ります。


サーリューションの行動解析・遠隔監視 開発事例5選

① 電流センサーによる見守りシステム

マイコン:ルネサス RL78/G13(低消費電力タイプのマイコン)
要素技術:AD変換(センサーの電圧を数値に変換する処理)、特定小電力無線、Wi-Fi通信、ボタン、LED

家電がどれくらい電気を使っているかを測ることで、カメラを使わずに生活の様子を推定する見守りシステムです。「電気ポットが朝に使われた」「照明が夜まで消えない」といった変化から、いつもと違う状態に気づけます。

センサー側から特定小電力無線で親機に送り、親機がWi-Fiでインターネットへ中継する二段構えの構成です。住宅内は電源やネットワークが行き届いていないことが多いため、センサーは小電力の無線で飛ばし、電源のある場所に置いた親機からインターネットへ出す。行動解析IoTで頻出する構成です。

ポイント:測っているのは電流だけですが、「いつ、どれくらい」を積み重ねると生活のリズムが見えてきます。知りたいことに対して、いちばん負担の少ない測り方を選ぶという設計の好例です。一方で、生活のリズムが分かるということは個人に関わるデータでもあるため、誰がどの目的で見るのかを最初に決めておく必要があります。


② 赤外線アレイセンサーで人を捉える機器

マイコン:ノルディック nRF51822(BLE通信を内蔵したマイコン)
要素技術:赤外線アレイセンサー、BLE

赤外線アレイセンサーは、視野の中の温度分布を格子状に捉えるセンサーです。人は周囲より温かいので、映像を撮らずに「人がいる」「何人いる」「どのあたりにいる」を判定できます。

BLEでデータを送る構成のため、スマートフォンや中継機で受けられます。BLEは消費電力が小さく、電池での運用に向いています。

ポイント:プライバシーへの配慮が必要な場所(店舗・オフィス・住宅・介護施設など)で、行動解析の入口になる構成です。ただしセンサー自体はミリアンペア級の電流を使うため、常時測るのか、間隔をあけて測るのかで電池寿命が大きく変わります。


③ 体に装着して動きを測る計測デバイス

マイコン:ノルディック nRF51822
要素技術:加速度センサー、AD変換、ボタン、LED、BLE

体に装着し、複数のセンサーの値をマイコンで読み取って、BLEでスマートフォンへ送る装着型のデバイスです。加速度センサーは体の動きと姿勢を捉える役割を担っています。

装着型デバイスの難しさは、小さい・軽い・長く動くを同時に満たす必要があることです。ここで電力を使うのは、実はセンサーそのものよりもマイコンの常時稼働と無線送信です。そのため、加速度センサー側からの割り込み(動きを検知したら知らせる機能)を使って、動きがないときは本体を眠らせておく作り込みが要ります。「測れる」と「毎日つけてもらえる」の間には大きな距離があります。

ポイント:体の動きそのものを測れるのが装着型の強みです。ただし装着してもらえるかどうかが成否を分けるため、設計初期から電池と大きさの目標を決めておく必要があります。


④ 利用状況が記録される充電ロッカー

マイコン:ST STM32L0(低消費電力タイプのマイコン)
要素技術:充電制御、LED、NFC、Wi-Fi、BLE、MODBUS通信(産業機器でよく使われる有線の通信規格)、ソレノイド制御(電磁石で錠を動かす制御)

内部で充電ができるロッカーです。行動解析の観点で重要なのは、利用の記録がそのままデータとして残る点です。

Wi-Fi/BLE/MODBUSの複数の通信手段を持ち、設置場所のネットワーク環境に合わせられる構成になっています。

ポイント:センサーをわざわざ足さなくても、認証と操作の記録そのものが行動データになります。すでにある機器に通信機能を足すだけで利用状況が見えるようになるケースは多く、費用対効果の良い入口になることがあります。この場合も、利用者が特定できる記録になるため、取得する目的をあらかじめ明示しておくことが必要です。


⑤ 屋外を遠隔監視する水位計(2021年開発)

マイコン:ノルディック nRF52832
要素技術:AD変換、角速度センサー(ジャイロ)、BLE、Sigfox、LTE

ため池などの水位を測り、離れた場所から確認できるようにするシステムです。

通信は役割を分けています。 データを送るのは Sigfox と LTE。BLEは、現地でスマートフォンからファームウェア(機器の中のソフト)を更新するための口です。

これが効きます。屋外の遠隔監視は、行動解析IoTのなかでもっとも条件が厳しい部類で、商用電源が無い/携帯電話の電波が弱い/人がすぐ行けないという三重苦のなかで動き続けなければなりません。人がすぐ行けない場所に置いた機器を、現地へ行かずに更新できるというのは、長く使う設備では大きな差になります。

📎 この開発事例の詳しい内容 → Sigfox・LTE・BLE対応の水位監視システム

関連する遠隔監視の事例:屋外だけでなく、工場や倉庫の中で「モノの状態」を遠隔で見るケースもあります。飲料の貯蔵タンクの温度を自動で管理する事例は、別記事でご紹介しています。
📎 食品×IoT|飲料貯蔵タンクの温度管理を自動化「温調管理システム」の開発


サーリューションが対応できる範囲

行動解析IoTは4段階の仕組みですが、「どこまで頼めるのか」が分からないと相談しづらいと思います。当社の対応範囲は次のとおりです。

段階 内容 対応
1. センサー・端末 センサー選定、回路設計、プリント基板設計、筐体・機構の設計、マイコンのソフト開発 自社で対応
2. 通信 無線方式の選定、通信部の実装 自社で対応
3. サーバー・クラウド データの受け口、蓄積、集計 対応します(案件に応じて連携先と進めます)
4. 画面 スマートフォン・パソコンでの表示、通知 対応します(同上)
その後 試作から量産、部品の調達 対応します

1と2を一社で持っていることが、行動解析IoTでは効きます。「電波が届かないのでセンサーの置き場所を変えたい」「電池を長持ちさせるために測る間隔を変えたい」といった調整は、回路とソフトの両方に関わるためです。別々の会社に頼むと、この調整のたびに三者で打ち合わせることになります。

📎 対応範囲と外注の進め方の詳細 → 組み込み受託開発とは|外注の進め方・費用・選び方ガイド


導入でつまずく4つのポイント

1. 電源をどう取るか

もっとも多い手戻りがこれです。「センサーはここに置きたい、でもコンセントが無い」。電池で動かすなら、測る頻度と送る頻度を減らすことが最優先の設計課題になります。1時間に1回でいい情報を1分に1回送ると、電池は60倍速で減ります。

先に決めること:どこに置くか → 電源はあるか → 無ければ何年もたせたいか。この順番です。

2. 通信が届くか

カタログの通信距離は見通しの良い場所での数字です。実際は壁・棚・金属・水で大きく減衰します。設置予定の場所で実際に電波が届くか試す工程を、開発の前半に入れておくと安全です。

3. 誰のどんなデータを、何の目的で取るか

行動解析は、映像を使わなくても個人に関わるデータを扱うことがあります。従業員の動きを測る場合や、利用者の記録を残す場合はとくにそうです。

  • 何のために取るのか(利用目的)を決めて、対象となる人に伝えられる形にしておく
  • 誰が見られるのか、どこまで保存するのかを決めておく
  • 目的に対して、必要以上に細かいデータを取らない

「カメラを使わない構成を選ぶ」ことは、実はここへの答えにもなっています。必要な数字だけを取る設計は、説明もしやすいからです。

4. 集めたデータを誰が見るか

見落とされがちですが、いちばん大事な点です。データが貯まっても、見る人がいなければ何も変わりません。

  • 毎日見るのか、異常のときだけ通知が来ればいいのか
  • 誰のスマートフォン・パソコンに届くのか
  • 異常が出たとき、誰が何をするのか

ここが決まっていると、必要な機能がはっきりして開発費も下がります。逆にここが曖昧なまま作ると、使われないダッシュボードができあがります。


費用と進め方:小さく試してから広げる

行動解析IoTは、最初から全部作らないのが定石です。

段階 やること 目的
1. 試作(PoC) 1〜数台で、実際の場所に置いて測ってみる 電波は届くか/欲しい情報が取れるか/電池はもつか
2. 小規模導入 数台〜十数台で運用してみる 運用に耐えるか/誰が見るかが機能するか
3. 本格展開 量産設計・台数を増やす コストを下げ、横展開する

段階1で分かることが多く、ここを飛ばすと後で大きく作り直すことになります。まずは1台、実際の場所に置いてみるところから始めるのが結果的にいちばん早い進め方です。

📎 費用の考え方・見積りの内訳 → 組み込み開発を外注する費用・相場|見積りの内訳と抑えるコツ


まとめ

  • 行動解析IoTは 「測る → 送る → 見る」 の3段構え。カメラを使わない構成のほうが実務では多い
  • 何を知りたいかから逆算してセンサーを選ぶ。消費電力は種類によって桁が違うので、電池で動かすなら要注意
  • 設計でいちばん揉めるのは通信方式。「どこに置くか」を先に決めると手戻りが減る
  • つまずくのは 電源/電波が届くか/データの扱い/誰が見るか の4点
  • まず1台、実際の場所に置いてみる。ここを飛ばすと後で作り直しになる

サーリューションは、見守りシステム、赤外線アレイセンサー、装着型デバイス、屋外の遠隔監視まで、行動解析IoTの実績があります。センサー・回路・基板・ファームウェアを一社で対応しているため、「まず試したい」という段階からご相談いただけます。

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