マイコンによるセンサ計測・AD変換の開発事例5選|圧力・加速度・生体信号・音まで

はじめに:なぜマイコン開発で「センサ計測・AD変換」が肝になるのか

圧力、温度、加速度、電圧、生体信号、音や振動——機器が「外の世界の状態」を知るための入口が、センサとAD変換(アナログ・デジタル変換)です。マイコンが扱えるのはデジタルの数値だけなので、現実世界のアナログ量をいかに正確にデジタル化するかが、製品の計測精度をそのまま左右します。センサ計測・AD変換は、組み込み製品の「品質の土台」になる技術です。

サーリューションがこれまでに開発した案件のうち、およそ2割が何らかのセンサ計測・AD変換を含む案件です。生体計測機器、産業用ゲージ、電力計測器、姿勢推定ユニット、設備モニタリング——分野は違えど、「アナログの物理量を、現場で信頼できるデジタルデータに変える」という共通の要求に応えてきました。

本記事では、サーリューションのセンサ計測・AD変換の開発事例から代表的な5件を取り上げ、マイコンでセンサ計測をどう設計・実装しているのかを共有します。


センサ計測・AD変換の基礎

本題に入る前に、マイコンでセンサ計測を行うときに押さえておきたいポイントを整理します。

センサ信号をAD変換してマイコンでデジタル処理する流れ

AD変換(アナログ・デジタル変換)とは

センサが出力するアナログ電圧を、マイコンが扱えるデジタル値に変換する処理です。多くのマイコンはAD変換器を内蔵しており、外部から入った電圧を一定間隔で数値に置き換えます。この「数値化の質」が、計測機器としての価値を決めます。

分解能(ビット数)とサンプリング

  • 分解能:何段階で電圧を表現できるか。10ビットなら1024段階、12ビットなら4096段階、24ビットなら約1677万段階。微小な信号ほど高い分解能が要る
  • サンプリング周波数:1秒間に何回測るか。信号に含まれる最高周波数の2倍より速く測る必要がある(標本化定理)。実務上はエイリアシング(後述)を避けるため、余裕を見て数倍で測るのが定石

「ゆっくり変わる温度を10ビットで」と「μV(マイクロボルト)級の生体信号を高分解能で」では、必要な設計がまったく異なります。

アナログフロントエンド(増幅・フィルタ)

センサの生の信号は、そのままAD変換するには小さすぎたり、ノイズが乗っていたりします。AD変換の前段で増幅(アンプ)とノイズ除去(フィルタ)を行うアナログ回路を「アナログフロントエンド」と呼びます。マイコンのアナログ周辺(内蔵AD・基準電圧・アンプ・フィルタ)をどう組み合わせ、必要なら外付けの高分解能ADCをどう足すか——この前段設計の品質が、微小信号を扱う計測機器の精度を決定づけます。

センサの種類(測る物理量で分かれる)

  • 力・圧力系:圧力センサ、気圧センサ、ロードセル、ひずみゲージ
  • 温度系:サーミスタ、熱電対、赤外線(非接触)
  • 慣性系:加速度センサ、ジャイロ(角速度)、地磁気
  • 電気量系:電圧・電流センサ、シャント抵抗
  • 生体・音響系:生体電位、マイク(音・振動)

センサ計測・AD変換対応マイコンの主要選択肢

センサ計測を実装するマイコンの選択肢は複数ありますが、必要な分解能・処理性能・無線要件によって得意領域が異なります。サーリューションのマイコン開発・ファームウェア設計では、以下のラインナップを使い分けています。

メーカー/シリーズ 内蔵AD分解能 得意領域 サーリューション
採用実績
Renesas RL78 10ビット(G13/G14)〜12ビット(G1A) 低消費電力・長期供給。中分解能のセンサ計測+SD記録に強い定番 脳波計、自己位置推定、各種計測器
Renesas RX 12ビット〜 高性能。フィルタ・演算が重い計測や、高速・多chサンプリング向け 非接触電圧センサー、認証機器
ST STM32 12ビット〜 周辺機能が豊富。高分解能化・グローバル展開向け 脳波計(本体)
Microchip PIC 10ビット 低コスト・シンプル。単機能の計測器やローカル表示完結型に好適 エアゲージ、各種センサ治具
Espressif ESP32 12ビット(内蔵)+I2S 無線一体。音響・振動の取り込みとクラウド送信を1チップで。内蔵ADは要校正、高精度は外付けADC併用 音声振動モニター

どこまで細かく測りたいか(分解能)」「測った後にどれだけ加工するか(信号処理)」「記録か無線送信か(出口)」の3点で、最適なマイコンは変わります。なお内蔵ADの分解能が足りない場合は、外付けの高分解能ADC(ΔΣ型など)を併用して補います。


サーリューションのセンサ計測・AD変換 開発事例5選

生体信号、圧力、電圧、慣性、音振動のセンサ計測事例

事例1|脳波計|μV級の生体信号を計測(生体計測×AD変換×SD記録)

  • 使用マイコン:Renesas RL78/G13・RL78/G1A(上位構成ではSTM32F4も採用)
  • 要素技術:生体微小信号のAD変換、アナログフロントエンド、SDカード記録(FAT)、LCD表示

生体計測(脳波・心電・筋電など)は、人体が発するごく微弱な電気信号を相手にする、センサ計測のなかでも難度の高い領域です。信号が小さいほどノイズに埋もれやすく、被験者の安全や装着性まで含めた設計が求められます。

頭皮から得られる脳波(EEG)は、わずか数十μV(マイクロボルト)という極めて微小な信号です。そのままでは数値化できないため、前段のアナログフロントエンドで増幅・フィルタ処理したうえでAD変換します(求める分解能に応じて、内蔵ADに加えて高分解能の外付けADCを併用する構成も選べます)。計測データはSDカードにFAT形式で記録し、PCで後解析できるようにしています。

本案件の山場は、ノイズとの戦いです。μV級の信号では、電源ノイズ・体動・商用電源由来のハム(50/60Hz)が容易に信号を埋もれさせます。アナログ回路・基板パターン・ソフトのフィルタを三位一体で設計し、現場で意味のある波形が取れる状態を作り込みました。

生体計測・医療機器・ヘルスケアデバイスなど、微小信号を相手にする計測機器全般に応用が利く設計パターンです。


事例2|エアゲージ|現場で完結する圧力計測(圧力センサ×ローカル表示)

  • 使用マイコン:Microchip PIC16F1509
  • 要素技術:気圧・圧力センサのAD変換、LCD表示、ボタン操作

圧力を測ってその場でLCDに表示する、シンプルかつ堅実な計測器です。クラウドも無線も使わず、センサ→AD変換→演算→表示までを1チップで完結させる構成です。

こうした単機能の計測器では、過剰な性能は不要です。本事例では低コストで枯れたPICを選び、必要十分なAD分解能と確実な表示・操作性に絞ることで、壊れにくく、安く、長く使える製品に仕上げています。「何でも高性能チップ」ではなく、用途に合った最小構成を選ぶ——これも設計力の一部です。

ハンディ計測器・現場ゲージ・検査治具など、その場で読めれば十分な用途に再利用できる典型パターンです。


事例3|非接触電圧センサー|高電圧を安全に測る(高電圧AD×非接触×SD記録)

  • 使用マイコン:Renesas RX210
  • 要素技術:高電圧の非接触計測、AD変換、SDカード記録(FAT)、シリアル通信

配線に直接触れずに電圧を計測し、データをSDカードに記録する計測器です。高電圧を扱うため、計測部と制御部を電気的に分離(絶縁)しつつ、必要な精度でAD変換する設計が要求されます。

高電圧計測では、安全性と計測精度の両立が最大の課題です。本件では処理性能に余裕のあるRX210を採用し、サンプリング・平均化・外乱除去のロジックを十分に回せる構成とすることで、現場で信頼できるデータ取得を実現しました。

電力監視・設備点検・インフラ計測など、高電圧かつ安全性が問われる計測案件で応用が利く設計です。


事例4|自己位置推定ユニット|慣性センサで姿勢を読む(加速度・角速度×センサフュージョン)

  • 使用マイコン:Renesas RL78/G14
  • 要素技術:角速度・加速度センサ(IMU)のAD取り込み、Madgwickフィルタによる姿勢推定、LAN通信

加速度センサと角速度センサ(ジャイロ)の値から、機器の「向き・傾き」をリアルタイムに推定するユニットです。単にセンサ値を読むだけでなく、複数センサの値を統合して姿勢を割り出す「センサフュージョン」がこの案件の核心です。

加速度センサは振動に弱く、ジャイロは時間とともに誤差が蓄積(ドリフト)します。互いの弱点を補い合うため、Madgwickフィルタという姿勢推定アルゴリズムをマイコン上で実装し、安定した姿勢出力を得ています。本件は地磁気を使わない6軸構成(加速度3軸+角速度3軸)とし、屋内などで生じる磁気外乱の影響を避ける狙いです。AD変換した生データを、その先のソフトウェアでどう料理するか——計測の価値は、ここで大きく変わります。

ロボット・ドローン・装着型デバイス・搬送機など、「自分がどう動いているか」を知る必要がある機器に広く展開できる技術です。


事例5|音声振動モニター|音と振動で異常を捉える(I2S音響取得×AD×無線送信)

  • 使用マイコン:Espressif ESP32
  • 要素技術:マイクからの音声取得(I2S)、AD変換、Wi-Fi通信

設備が発する音や振動を取り込み、Wi-Fiで送信するモニタリング機器です。音声はI2Sというデジタル音声インターフェースで取り込み、振動などはAD変換で数値化します。「測る」と「送る」を無線一体のESP32が1チップで担う構成です。なお、ESP32の内蔵ADは校正を前提とし、より高い精度が要る計測では外付けADCを併用します。

音や振動は、機械の異常を早期に知らせるサインです。本件では取り込んだ信号を整え、上位システムへ継続的に送ることで、設備の状態を遠隔で見守る土台を作りました。エッジ側でどこまで処理し、どこからクラウドに任せるか——この役割分担の設計が、IoT計測の使い勝手を決めます。

設備保全・予知保全・環境モニタリングなど、音・振動を起点にしたIoT計測で再利用可能なアーキテクチャです。


センサ計測・AD変換でつまずきやすい3つのポイント

センサ計測は「センサをつないでAD変換すれば測れる」と思われがちですが、製品レベルの精度を出そうとすると地味に詰まります。サーリューションが特に注意して設計しているポイントを3つに絞って共有します。

マイコン基板と測定器を使ってセンサ信号を確認する開発現場

1. アナログフロントエンドとノイズ対策

  • 微小信号ほど、増幅・フィルタ・基板パターンの設計品質がそのまま精度に出る
  • 電源ノイズ、商用電源由来のハム、他回路からの干渉が信号を埋もれさせる
  • アナログ回路・基板・ソフトのフィルタをセットで設計しないと、現場で安定しない
  • 「ラボでは測れたのに現場でばらつく」の多くはここに起因する

2. 分解能とサンプリングの設計

  • 必要分解能を見誤ると、内蔵ADで足りるのか外付けの高分解能ADCが要るのかを誤判断する
  • 速い変化を捉えるには十分なサンプリング周波数が必要(不足すると偽の信号=エイリアシングが出る)
  • 「過剰な分解能」もコスト・消費電力の無駄になるため、用途に対する最適点を見極める

3. 校正(キャリブレーション)とドリフト対策

  • センサやマイコン内蔵ADには個体差(オフセット・ゲインのばらつき)があり、出荷時の校正が精度を左右する
  • 温度変化や経年で値がずれる(ドリフト)ため、温度補正や定期校正の仕組みを織り込む
  • 「測れる」と「正しく測れ続ける」は別物。校正の設計まで含めて計測機器と考える

マイコン選定の考え方

センサ計測・AD変換のマイコン選定は、上から順に絞り込む形で進めると判断がブレません。

① 必要分解能
     ├─ μV級・高分解能が必須 → 外付け高分解能ADC(ΔΣ型)+RX/STM32
     └─ 中分解能(10〜12bit)で十分 → 内蔵AD搭載のRL78/PIC

② 信号処理の重さ
     ├─ フィルタ・FFT・センサフュージョンなど重い → RX/STM32/ESP32
     └─ 単純計測・しきい値判定中心            → RL78/PIC

③ データの出口
     ├─ 無線でクラウド送信したい → ESP32
     ├─ SDカード等に記録したい   → RL78/RX
     └─ その場で表示すれば十分   → PIC/RL78

④ 供給保証・コスト
     ├─ 長期供給が必須         → Renesas RL78
     └─ 低コストで量産         → Microchip PIC

計測機器の現場では「必要十分な分解能・信号処理性能・データの出口」の3点で決め手が変わります。内蔵ADで足りなければ外付けの高分解能ADCを足す——この見極めも含め、サーリューションでは用途に対して過不足のないマイコンを選び、アナログ回路からソフトのフィルタまで一貫して設計できることを強みにしています。


まとめ

マイコンでセンサ計測・AD変換を製品化する際は、

  1. 必要分解能に合ったマイコン/ADCの選定(内蔵ADか外付け高分解能ADCか)
  2. アナログフロントエンドとノイズ対策(増幅・フィルタ・基板を一体設計)
  3. 校正とドリフト対策(「正しく測れ続ける」までを設計に含める)

の3点が成否を分けます。

サーリューションのマイコン開発サービスでは、生体微小信号の脳波計、現場完結のエアゲージ、高電圧の非接触電圧センサー、姿勢推定ユニット、音声振動モニターなど、多様なセンサ計測・AD変換の実績を積み重ねてきました。回路設計・基板設計からファームウェア設計までを社内で一気通貫に対応できることが、サーリューションの計測案件の強みです。アナログ回路とソフトを切り離さずに作り込めるため、ノイズや精度の問題に踏み込んだ解決ができます。

「微小なセンサ信号を正確に測りたい」「現場でノイズに悩んでいる」「センサ計測をIoT化したい」——そういったマイコン開発・ファームウェア設計の課題について、まずは技術相談から、お気軽にご相談ください。

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